詩「皺(しわ)」◆人生を味わう

◆自転車に乗っていると、全身で道の起伏を感じます。走っている道を味わうことができるのです。人生は目的地に早く着くことでもなければ、ましてや転ばないようにうまく走ることでもないように思います。生きるということは、自転車に乗るように、その進んでいる道を感じながら喜びも悲しみさえもしっかりと味わうことではなかろうかと思うのです。
悲しみ
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多くの方々に詩を読んでいただければと思っています。

「皺(しわ)」    藤川幸之助

母の病院へ自転車で向かう。
道路の起伏がよく分かる。
上り坂がくると
尻をサドルからあげて
ひとこぎひとこぎ
坂の頂上を見つめて上っていく。

上ったら下らなければならない。
下ったらまた上らなければならない。
この上り下りは
ただ平坦な道より
私の足腰を鍛える。
道の凸凹にあわせて前に進む。
道の凸凹を全身で感じる。
通りすぎる風を肌で味わう。
この道のことがよく分かってくる。

病院へ着くと
母は大きないびきをかいて眠っていた。
上り下りする額の皺と
私の知る母の人生の浮き沈みを重ねてみる。
このどこら辺で父と出会い
このどこら辺で私が生まれ
このどこら辺で母は認知症を患い
私が母のオムツを
替えはじめたのだろうかと。

いびきがあんまりうるさいので
咳払いをすると
母が顔をしかめて
額の皺を一段と深くした。
このどこら辺で母は…。
「お母さん、息ばせんばんよ。
きつか時には呼びない。
すぐ来るけんな。ゆっくり寝ないよ。」
これが生きた母に会うのは
最期になるかもしれない。
毎日必ず言って別れる
明日会うための呪文のような言葉。
©Konosuke Fujikawa【詩・写真*藤川幸之助】

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