詩「扉」◆むき出しの母の心


   藤川幸之助
認知症の母を
老人ホームに入れた。

認知症の老人たちの中で
静かに座って私を見つめる母が
涙の向こう側にぼんやり見えた。
私が帰ろうとすると
何も分かるはずもない母が
私の手をぎゅっとつかんだ。
そしてどこまでもどこまでも
私の後をついてきた。

私がホームから帰ってしまうと
私が出ていった重い扉の前に
母はぴったりとくっついて
ずっとその扉を見つめているんだと聞いた。

それでも
母を老人ホームに入れたまま
私は帰る。
母にとっては重い重い扉を
私はひょいと開けて
また今日も帰る。
詩集『マザー』ポプラ社より

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扉寒色 (1)
■私が施設を去った後、私が出て行った扉の前を母は離れようとせず、時には二時間もそこに立っていると施設の人に聞いた。認知症が進んで母は何も分かっちゃいないと思っていたからこそ、何か安心していたところが私にはあったが、この話を聞いてからこの扉は言葉を失った母のむき出しの心に見えるようになった。本当は私にとっても「重い重い扉」になったのだ。
©Konosuke Fujikawa【詩・絵*藤川幸之助】
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