【詩「花見」◆実家の親】

花見    
        藤川幸之助
たこ焼きとカンのお茶を買って
父と母と三人で花見をした
弁当屋から料理を買ってきて
花見をやればよかったねと言うと
弁当は食い飽きてね
と父が言い返した
母が認知症になり料理を作らなくなって
毎日毎日、弁当屋に行くのだそうだ
弁当屋の小さなテーブルで
毎日毎日、二人で並んで弁当を食べるのだそうだ
あの二人は仲のよかね
と病院中で評判になっているんだと
父は嬉しそうに話した

この歳になっても
誉められるのは嬉しかね
何もいらん
何もいらん
花のきれかね
よか春ね
母に言葉がいらなくなったように
父にも物や余分な飾りは
いらなくなってしまった

今年もカンのお茶とたこ焼きを買って
母と二人で花見をした
花のきれかね
よか春ね
と父の口真似をして言ってみる
独り言を言ってみる

   『満月の夜、母を施設に置いて』(中央法規出版刊)

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花見

■久しぶり実家に帰って、父からこの弁当屋での話を聞いたとき、私は父の前で涙を流してしまった。弁当屋の小さなテーブルに向かい合って座る認知症の母と老いた父の姿を、頭の中で想像するだけで、今も心の奥が強く締め付けられる。父は心臓病を患っていたが弱音を吐かなかった。私に手を貸せと一言も言わなかった。「お母さんは俺が大切にする」父の口癖だった。
©Konosuke Fujikawa【詩・絵*藤川幸之助】
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