詩「手の温かさ」◆手の温み

手の温かさ
            藤川幸之助
車イスの母と海を見に行った
母の手をにぎった
しわだらけの母の手は冷たかった
「あなたの手は温かいはね」
と認知症の母は言わなかったが
しっかりと私の手を握り返した
私の温かさは
自分を分け与えながら
自分は冷たくなりながら
母の冷たさを温めていく

   *

幼い頃
母の手の柔らかさを
左手で確かめながら
母から手渡されたカステラを
右手で握って食べた
母の手は温かかった

つないだままの手
いつの間にか
母の手も
私の手も
同じ温かさに…
そして
どんどん温かくなっていく

冷たい潮風
吹け吹け
握った手はもっともっと
温かくなっていく
潮風
吹け吹け
吹いてみろ
    『マザー』(ポプラ社刊)に関連文
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◆母の手を握ったら、ひんやりした母の手へ私の温かさが伝わるのが分かった。認知症になって二十数年、言葉のない母だったが、手を握ると、無限に出てくる温かさがあった。「温」という言葉には、「大切にすること」という意味もあるらしい。大切なことは、いつも言葉の一番遠くにあった。◆2019年の配信は今日で終わりになります。1年間、ご愛読ありがとうございました。
©Konosuke Fujikawa【詩・写真*藤川幸之助】
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