【詩「徘徊と笑うなかれ」】

◆一本の線を引くと「こちら側」と「あちら側」ができる。私にも線引きがあった。認知症の母を見ながら、私のこちら側は正常な世界で、認知症の母のあちら側は異常な世界だと、言葉には出さないけれど思っていた。◆線引きがあるうちは、そこには同情しか生まれない。本当の理解は存在しない。国境がそうだ。差別がそうだ。◆ある日、キューピー人形にお乳をやろうとしている母の姿が目にとまった。赤ん坊の兄か姉か私を大切に抱きしめていた。母は若い頃の自分に戻って、この今という時を生きているのだと思った。◆頭の中に広がっている世界の沿って今を生きているという意味では、私と母とは何ら変わらない。ただ母の中の思い出の順番が違っているだけだと思った。この今がどこかへ行って、昔の思い出が頭の中にあって…。私の中で一本の線が消えた。◆今日も朗読動画を作りました。ご覧いただければ幸甚です。

徘徊と笑うなかれ
         藤川幸之助
徘徊と笑うなかれ
母さん、あなたの中で
あなたの世界が広がっている
あの思い出がこの今になって
あの日のあの夕日の道が
今日この足下の道になって
あなたはその思い出の中を
延々と歩いている
手をつないでいる私は
父さんですか
幼い頃の私ですか
それとも私の知らない恋人ですか

妄想と言うなかれ
母さん、あなたの中で
あなたの時間が流れている
過去と今とが混ざり合って
あの日のあの若いあなたが
今日ここに凜々しく立って
あなたはその思い出の中で
愛おしそうに人形を抱いている
抱いているのは
兄ですか
私ですか
それとも幼くして死んだ姉ですか

徘徊と笑うなかれ
妄想と言うなかれ
あなたの心がこの今を感じている
 「支える側が支えられ 生かされていく」(致知出版)より

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©Konosuke Fujikawa【詩・動画*藤川幸之助】
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