沈黙の重み◆詩「静かな夜に」

◆このオリンピック開会式に女性タレントを侮辱するような演出の提案があったそうだ。身体的特徴で他者を判断するルッキズムには断固反対であり、また動物に喩えるその表現がとても不快だ。◆その提案はグループライン内の仲間内でのやりとりだったらしい。内輪でのアイデアのやりとりが人前に出てしまい、「正しさ」で裁かれるのもあまり良い心持ちはしない。いつかAIなどで自分の頭の中のアイデアまでもが「正しさ」で裁かれる日がくるかもと思うと、背中が凍りつく。◆しかしながら、閉ざされた内輪のざっくばらんな中で、ルッキズムによる差別が許されてしまうのであればもっと不快だし、それはただの陰口だ。が、不快に感じるメンバーが数人いて提案は立ち消えになったのだそうだ。◆今日の詩は、「静かな長い夜」。認知症で言葉をなくした母の詩だ。口からなかなか出ない言葉は沈黙の意味を教えてくれる。口からつい出てしまった言葉は沈黙の重みを教えてくれる。©Konosuke Fujikawa
L1020239-2のコピー
静かな長い夜
        藤川幸之助
母に優しい言葉をかけても
ありがとうとも言わない。
ましてやいい息子だと
誰かに自慢するわけでもなく
ただにこりともしないで私を見つめる。

二時間もかかる母の食事に
苛立つ私を尻目に
母は静かに宙を見つめ
ゆっくりと食事をする。
「本当はこんなことしてる間に
 仕事したいんだよ」
母のウンコの臭いに
うんざりしている私の顔を
母は静かに見つめている。
「こんな臭いをなんで
 おれがかがなくちゃなんないんだ」

「お母さんはよく分かっているんだよ」
とひと他人は言ってくれるけれど
何にも分かっちゃいないと思う。

夜、母から離れて独りぼっちになる。
私は母というな凪いだ海に映る自分の姿を
じっと見つめる。
人の目がなかったら
私はこんなに親身になって
母の世話をするのだろうか?
せめて私が母の側にいることを
母に分かっていてもらいたいと
ひたすら願う静かな長い夜が私にはある。
『支える側が支えられ、生かされていく』(致知出版)
©Konosuke Fujikawa【詩・文*藤川幸之助】

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