「アデュカヌマブ」◆詩「領収証」

C青い星が余剰になった話-2
◆父が亡くなって数年経ってからのことだった。認知症の母の病室に行くと、白い薬が処方されていた。尋ねると、「アリセプト」という認知症の薬だった。あんなに遠くにあった薬がやっとここまでたどり着いたのかと思った。◆この薬の日本での臨床開始が1989年、アメリカが1991年、母が認知症と診断されて数年後のことだった。父は書物を渉猟し、認知症の症状を遅らせる「アリセプト」という薬があることを知った。この薬は1996年11月いち早くアメリカで承認された。◆不治の病と言われていたアルツハイマー病への一縷の希望だった。母の病気の進行を早く止めてあげたいと、父はアメリカまで行く覚悟を決めた。その旅費や薬代捻出のために、父は爪に火を点すように暮らした。「日本の製薬会社が作ったのに、なんでアメリカまで行かなければ手に入らないのか」と父は不満げだった。母の介護に疲れ果て、1997年父は失意のうちに持病の心臓病で世を去った。「アリセプト」の日本での承認は臨床が始まって10年後の1999年だった。◆認知機能の低下を抑える世界初の薬「アデュカヌマブ」という認知症の薬が6月7日アメリカFDAにより承認され、日本でもすでに承認を申請しているとのことだが、年間の薬剤費は一人約613万円になるとも聞く。この薬こそは一縷の希望のままではなく、一刻も早く一人でも多くの認知症の方やそれを支えている家族を救う薬になってほしい。©Konosuke Fujikawa
詩集【支える側が支えられ 生かされていく】◆https://amzn.to/2TFsqRT

領収証

              藤川幸之助
父は
おしめ一つ買うにも
弁当を二つ買うにも
領収証をもらった
そして
帰ってからノートに明細を書いた
「二人でためたお金だもの
 母さんが理解できなくても
 母さんに見せないといけないから」
と領収証をノートの終わりに貼る父
そのノートの始まりには
墨で「誠実なる生活」と父は書いていた

私も領収証をもらう
そして母のノートの終わりに貼る
母には理解できないだろうけれど
母へ見せるために
死んでしまったけれど
父へ見せるために
アルツハイマーの薬ができたら
母に飲ませるんだと
父が誠実な生活をして
貯めたわずかばかりのお金を
母の代わりに預かる
母が死んで
父に出会ったとき
「二人のお金はこんな風に使いましたよ」
と母がきちんと言えるように
領収証を切ってもらう

私はノートの始めに
「母を幸せにするために」
と書いている
 「支える側が支えられ 生かされていく」(致知出版)より

みなさま、宜しければ「シェア」をお願いします。
多くの方々に詩を読んでいただければと思っています。

©Konosuke Fujikawa【詩*藤川幸之助】
◆自選藤川幸之助詩集
 【支える側が支えられ 生かされていく】
 詳細は◆https://amzn.to/2TFsqRT

みなさま、宜しければ「シェア」をお願いします。
多くの方々に詩を読んでいただければと思っています。
・———・———・◆・———・———・
◆エッセイ集
「母はもう春を理解できない
 〜認知症という旅の物語〜」
https://amzn.to/3o7ASX8

◆絵本・こどもに伝える認知症シリーズ4
 絵本『赤いスパゲッチ』
 詳細は◆https://amzn.to/3qG7KrH

◆絵本・こどもに伝える認知症シリーズ3
 絵本『一本の線をひくと』
 詳細は◆https://amzn.to/345fHNq

◆絵本・こどもに伝える認知症シリーズ2
 絵本『おじいちゃんの手帳』
 詳細は◆https://amzn.to/2T9WJ3N

◆絵本・こどもに伝える認知症シリーズ1
 絵本『赤ちゃんキューちゃん』
 詳細は◆https://amzn.to/38Jlzw0
・———・———・◆・———・———・
◆初めてこのページに来られた方へ
この【詩人*藤川幸之助】facebookページへ「いいね!」をお願いいたします。
https://www.facebook.com/fujikawa.konosuke