「正常性バイアス」◆詩「手帳」

◆正常性バイアス(Normalcy bias)という心理学用語がある。事件や事故、自然災害など自分にとって被害が予想される状況下で、日常生活の延長上の出来事として捉えて「自分は大丈夫だ」とか「まだまだ大丈夫だ」などと思ってしまうことだ。◆母に認知症の症状が出はじめた時の私の反応が正にそうだった。母が60才、私が26才の時だった。認知症の母を前に、「あの気丈な母が認知症になるわけがない」とか「母はまだまだ大丈夫だ」と、認知症は自分とは関係ないことだと思っていた。いや、思いこもうとしたのかもしれない。◆私のように自分にとって都合の悪い情報を無視したり、状況を過小評価したりするのが、認知バイアスが強くかかった時の特性なのだ。◇今日は詩「手帳」。以下の講演会でも朗読する予定です。©Konosuke Fujikawa

◆講演会名 かながわ訪問看護フェスティバル2022
□講演日 2022年10月22日(土)12:20~16:00
◆申し込み締切り・令和4年10月12日(水)
◆お電話での申し込み 電話 045-263ー2933
https://www.townnews.co.jp/0114/2022/09/15/641424.html

◆講演会名 三沢市介護予防講演会
□講演日 2022年10月26日(水) 13:30~15:30
◆申し込み締切り・令和4年10月14日(金)
◆お問い合わせ
 青森県三沢市 健康福祉部 介護福祉課
 電話:0176-51-8773 FAX:0176-53-2266
http://www.k-fujikawa.net/lecture.php
R0040620
◆詩「手帳」
  藤川幸之助
母が決して誰にも見せなかった手帳
いつもバックの底深く沈め
寝るときは枕元に置き
見張るように母は寝た
その母の手帳が
今私の手の上に乗っている

手帳にはびっしりと名前が書いてある
父の名前、兄の名前、私の名前・・・
そして、手帳の最後には
自分自身の名前がふりがなを付けて
どの名前よりも大きく書いてある
何度も鉛筆でなぞった跡
母は何度も何度も覚え直しながら
これが本当に自分の名前なんだろうかと
薄れゆく自分の記憶に
ほとほといやになっていたに違いない
母の名前の下には
鉛筆をこぶし拳で握って押しつけなければ
付かないような黒点が
二・三枚下の紙も凹ませて
くっきりと残っている

捜すといつもこの手帳を持って
母は三面鏡の前にいた
記憶の中から消え去ろうとしている
自分の連れ合いの名前や
息子の名前を必死に覚え直し
自分の呼び名である「お母さん」を
何度も何度も何度も唱えていた
私に気づくと母はあわ慌てて
カバンの中にその手帳を押し込んだ
その悲しい手帳が
今私の手の上に乗っている
詩集「支える側が支えられ 
     生かされていく」(致知出版より)
©Konosuke Fujikawa【詩*藤川幸之助】
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