詩「布切れ」◆大阪市淀川区講演

◆今日の詩は詩「布切れ」です。◆8月29日(木)大阪市淀川区民センターで講演をします。お近くの方は是非聞きに来られてください。
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布切れ
  藤川幸之助
ビールを買って車に戻ってみたら
母はいなかった。
酒屋の人も一緒になって探してくれた。
見知らぬ人も一緒になって
自分のお母さんでもないのに
みんな大声で「お母さん」と叫びながら。
母は酒屋の裏の
ビールの空き瓶の山の向こう側に
隠れるように座っていた。

その夜父は母をきつくしかりつけた。
母は困った顔をした。
私は優しく抱きしめた。
母は安堵した顔をした。
と すぐにうろうろと
またどこへともなく歩きだす。
「こんな夜中母さんどこへ行くんだ」
私が母をつかまえると
父は母のはいていたズボンをサッと脱がし
名前と住所と電話番号を書いた布切れを
手際よく縫いつけはじめた。
母はそれでもどこかへ行こうとする。
「母さんそんな格好でどこへ行くつもりだ」
大きなオムツ丸出しの
アヒルのような母をつかまえて私は笑った。
母もいっしょに笑っていた。

どこへも行かないようにと
布切れを縫いつけた父は死に
どこか遠いところへ行ってしまったけれど
母は歩けなくなった今も
その布切れのついたズボンをはいて
ベッドに横になって私の側にいる。
 『満月の夜、母を施設に置いて』(中央法規出版刊)  

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©Konosuke Fujikawa【詩*藤川幸之助】
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